パールイデアのクリエイティブに欠かせないクリエイターを紹介するインタビュー企画「クリエイティブの美学」。今回は、パールイデアでクリエイティブディレクター 兼 商品開発マネージャーとして活躍する 葛城 嘉幸(かつらぎ よしゆき)のご紹介です。

マネキンメーカーとしての弊社の創成期から、空間デザイン会社と認識される現在に至るまで、パールイデアでいつも先頭を走ってきた彼のクリエイティブの美学とは?

▲葛城 嘉幸 / パールイデア クリエイティブディレクター 兼 商品開発マネージャー。企画・デザイン部門を統括。ワークライフバランスを大切にし、週末には磯釣りをすることで心身ともにリセットしている。


もう30年以上前の話ですが、デザイン学校卒業後、業界大手のディスプレイ会社で3年間働きました。当時のデザイナーは週に3回家に帰れれば良い方と言われるくらい徹夜の連続で、働き方改革が推奨される現在とは間逆の世界。夕方営業がデザインルームに、明朝6:00までに仕上げる仕事を持ってきて徹夜が決定したり…最初の子供が生まれる時も展示会の現場管理で徹夜中、その後一週間子供の顔を見に行けない…そんな生活が普通だったのです。 しかしその濃縮された3年間は、仕事をする上での土台を作ってくれたと感じています。

私の担当していた展示会の仕事は短期間での開催のため、いつしか『カタチに残る』店舗づくりがしたいと思うようになり、縁あって昭和61年パールイデアに入社しました。岐阜の本社で働き始めたちょうどその頃、大型SC(ショッピングセンター)の出店ラッシュで、会社としても新規参入のチャンスがあり、私が担当する事に。そこからの20年間は出店改装ラッシュをクリエイティブディレクターの立場で、がむしゃらに突き進みました。

当時はもちろんパソコンなど無い時代で、パースや売り場の展開図、商品陳列まですべて手書き。A1サイズのボードに資料化してプレゼンをしていました。設計・発注・見積書作成・価格交渉も1人でこなし、全てのやり方を自分で考え、正解は解からないけど良い結果を出し続けていく…その連続です。

その後、東京に転勤となり10年、日々チャレンジ精神で昼夜を問わず走り続けて来ましたが、会社もデザイン部門も徐々に大きく成長し、現在は社内のクリエイティブ本部と開発部門の責任者として、部門運営・人材育成と商品開発分野に全力を注いでいます。

入社して最初に任されたパールイデアの展示会

マネキンを天井から宙吊りにしたり、ローリングタワーを演出に使ったり、前職のイベントで培った経験をフルに活かした楽しい仕事で、今でも忘れることが出来ません。

こちらは岐阜県の街おこしのために行政が企画した街路灯の実績。1700年程前の別府細工の燭台をモチーフに全てゼロから製作し、街の歴史に残る仕事となりました。


良い仕事をするためには健全な精神と肉体があってこそ

仕事をする上で大切にしていることは何ですか?

ディスプレイ業界のデザインに関わる仕事は、クライアント特性によって多少の違いはありますが、大きく分けて二通りあります。一つはアート感覚なデザイン性が求められ、独自の発想を形にする分野。もう一つは、人の心理や購買行動分析に伴い組み立ててゆくVMD分野です。

私は後者のVMD分野をライフワークとして長年携わってきました。マネキンの配置やディスプレイツールの開発・商品陳列手法・販売員へのディスプレイ教育等が主な仕事になります。VMDは、人間の心理や行動分析に基づいて組みたててゆく、ある種サイエンス的な要素を空間づくりに落とし込みます。私がもっとも大切にしているのは、目に見えるデザインだけでなく、人の意識や行動を考えて全体を組み立てていくことです。

また、良い仕事をするためには、健全な精神と肉体があってこそだと考えています。まずは健康とストレス解消が基本。その上で、もっと楽に同じ成果を出せる方法が無いかを常に考えています。かっこよく言うと現状に満足せずに、常に新しい事にチャレンジして行く気持ちです。

モットーはありますか?

「人の頭はどんどん使おう」…若いころ雑誌で見た言葉が僕のモットーです。一人では仕事はできませんし、自分よりも専門性のある仲間はたくさんいます。社内外のスペシャリストをうまくディレクションして、良い結果を生み出すことを常に意識しています。

どんなところにやりがいを感じていますか?

部下が仕事を成し遂げた時と、新しいスキームの運用によりお客様から感謝された時です。

休日の過ごし方は?

いつも情報を探していて、おもしろそうなところにはすぐに出かけて行きます。また、消防団・スポーツクラブ・自治会連・お祭り実行委員など、地域の活動にも積極的に参加したり、リフレッシュのために釣りや食べ歩きも大好きです。

尊敬している・憧れの人を教えて下さい

住んでいる地区のスポーツクラブ運営に参加していますが、そこを立ち上げた75歳のおじいちゃんです。元気で何でも出来て僕が目指す理想のおじいちゃん像です。

もっとも影響を受けた本はありますか?

2002年発行の「ショップサイエンス.3」がバイブルです。人が無意識に行動してしまうのにはすべて理由がある。その行動特性を利用して、“売り場を科学する”という考え方にとても共感しました。

最近感銘を受けたできごとは何ですか?

日々進化するデジタル技術です。毎日が感銘です。リアル店舗とデジタル分野の融合を実現する事、この分野で会社の新しい核を作ることが、僕の当面の目標です。

今、注目していること・ひと・ものはありますか?

今一番注目していることは、お客様をリアル店舗に引き込む為にデジタル等を駆使した”体験型店舗”の在り方で、社内では「アクティブディスプレイ」と称した動くディスプレイや、体験型小売店「リテールテイメント」といわれる分野の開発に注力しています。

※リテールテインメントとは、小売(リテール)と娯楽(エンターテイメント)を融合させた商業形態のこと。アメリカの小売では現在主流となってきている。

店舗=売り場はもう古い? リテールテイメントがキーワード NYの最旬体験型店舗4選

 


どこにも負けないクリエイティブ集団をデザインしたい

店舗の中で、自然と左に曲がるとか、手に取っちゃうとか、人の無意識な行動特性を考えた売り場づくりをこれまでずっと考えてきました。目に見えるデザインだけでなく、人の意識と行動に基づいたデザインとも言えます。

つまり、かっこいいとか感情に訴えかけるのが見た目のデザインだとしたら、人の無意識に訴えかける売り場の設計を大事にしたい。人の心理や行動特性を考えたデザインをすることが、僕のクリエイティブの美学であり、その重要さを後輩たちに教えてゆくことが僕の使命です。

そして、部門を率いる立場として、人としてまっすぐデザインに向かう人材育成をする事で、どこにも負けないクリエイティブな集団をデザインしていきたい。ゴールはありませんが、時代に合わせて変化に対応してゆく柔軟な人材と組織づくりは、目には見えなくとも確実に存在するパワーとなります。それが未来のパールイデアの礎になると信じて、これからも先頭を走り続けたいです。